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津地方裁判所四日市支部 昭和40年(ワ)4号 判決 1965年8月31日

主文

一、被告両名は、原告に対し、金九六、八二〇円と、これに対する昭和三九年六月二一日から完済に至るまで年三割六分の割合による金員とを、連帯して支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

事実

原告は、「一、被告両名は、原告に対し、金一五〇、〇〇〇円と、これに対する昭和四〇年三月三一日から完済に至るまで年三割六分の割合による金員とを連帯して支払え。二、訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、別紙『請求原因』欄記載の事実を陳述し、被告の主張した別紙『抗弁事実』欄第一項記載の点を否認した。

(立証省略)

被告らの訴訟代理人は、まず、本案前の答弁として、「一、本件訴を却下する。二、訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

「原告は、株式会社であるところ、その代表者代表取締役として、本訴の提起、追行を担当した皆川明は、昭和三八年一〇月一三日に原告会社の取締役、代表取締役の地位に就任し、爾来、現在に至つている。しかしながら、同人は、これよりさき、津地方裁判所四日市支部において破産の宣告をうけ、該決定は、昭和三八年八月八日に確定した。

ところで、破産者が、破産宣告当時就任していた株式会社の取締役たる地位を、該決定の確定と同時に、法律上当然に失うものであること、商法第二五四条第三項、民法第六五三条の明定するところであるが、さらに、破産者は、破産の確定によつて、爾後、復権のない限り、あらたに、株式会社の取締役たる地位に就任しうべき資格をも失うにいたるものと理解すべきである。されば、破産者たる皆川明は、実体上、有効に、原告会社の取締役、ひいては、その代表取締役たるの地位に就くことはできなかつたものというべきであり、したがつて、皆川明をもつて、原告会社の代表者代表取締役なりとして提起せられた本件訴訟は、ついに、不適法たるを免れない。」

とのべ、

さらに、本案について、「一、原告の請求を棄却する。二、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求原因に対する答弁として、「一、原告主張の請求原因事実第一項、第二項の各点は、これを認める。二、原告主張の請求原因事実第三項のうち、訴外矢田一男が、原告指摘の時期に、原告指摘のごとき小切手、ならびに現金を、原告に対して支払つたことは、これを認める。(しかし、これは、被告らが別紙『抗弁事実』欄第一項で主張するとおり、昭和三九年一月一七日に原告と被告両名、ならびに、右訴外人との間に締結された、免責的債務引受に関する契約に基づいて、同訴外人が原告に対して支払つたものである。もつとも、この合意が、結論的に、被告らの主張するような免責的債務引受にはあたらないということになれば、被告らとしては、原告主張の請求原因事実第三項の点を全面的に認めざるをえない。)」とのべ、さらに、抗弁として、別紙『抗弁事実』欄記載の事実を陳述した。

(立証省略)

理由

一、被告らの本案前の申立に対する判断

被告らの指摘するとおり、破産者は、かれが破産宣告当時就任していた株式会社の取締役たる地位を、該決定の確定と同時に、法律上当然に失うものであること商法第二五四条第三項、民法第六五三条の明定するところである。さりとて、被告らの主張するように、該法条を拡張的に解釈して、およそ破産者は、復権を得ない限り、あらたに株式会社の取締役たる地位にはつきえないと理解することは、とうてい、失当たるを免れない。されば、当裁判所の是認できない独自の見解を前提とする被告らの本案前の主張は、失当として、これを排斥すべきである。

二、本案の判断

1  まず、原告主張の請求原因事実のうち、第一項の点は、被告らの認めて争わないところである。

2 つぎに、被告らの主張した抗弁事実のうち、第一項の点については、該主張に符合する趣旨に帰着する証人矢田一男の証言もないわけではないが、弁論の全趣旨にかんがみ、該証言に充分の信用をおくことはとうていできず、他に、被告らの主張するごとく、被告両名が全面的に免責されることについて、原告が同意を与えたとの点を肯認するにたりる証拠は存在しない。されば、被告らの右抗弁は失当として排斥を免れない。

3 そして、原告主張の請求原因事実第二項、第三項の各点は、全部当事者間に争いのないところである。

ところで、金銭を目的とする消費貸借契約において、債務者が利息制限法が定める利息の最高限を超える利息金、あるいは、同法が定める遅延損害金の最高限を超える損害金を任意に支払つた場合、その支払がおこなわれた当時なお元本が残存する限りにおいて、該超過部分は、法律上、当然に、その元本の支払にあてられたものとみなすべきである。かかる見地にたつて、原告主張の請求原因事実第二項、第三項記載のごとくにして支払われた利息金ならびに各遅延損害金――これら支払にかかる利息金、ならびに遅延損害金のうち請求原因第三項の(2)記載の分を除くその余の分は、いずれも、多かれ少なかれ、利息制限法所定の利息金利率(年一割八分)、または、同法所定の損害金利率(年三割六分)を超えるものであるから、1のうち、同法所定の最高利率によつて計算した金額を超過する部分は、いずれも、それぞれ、その支払のなされた都度、借受元本の一部支払にあてられたものとみなして計算するときは、別紙計算書記載のとおり、(結論的にいつて)現に原告が被告両名に対してその支払を請求しうる貸付金残存元本は、金九六、八二〇円であり、また、これに対する年三割六分の割合による(未受領)遅延損害金の起算日が昭和三九年六月二一日であること、計算上、きわめて明らかである。

よつて、原告の本訴請求中、被告両名に対して、金九六、八二〇円とこれに対する昭和三九年六月二一日以降完済に至るまで年三割六分の割合による金員の連帯支払方を求める部分を正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

計算書

<省略>

これは、遅延損害金の割合を年3割6分として計算した場合この合計金額9,000円が、元本金96,820円に対して、39.3.20以降何日分の損害金に該当する、かを示したもの。

(別紙)

『請求原因』

一、原告は、昭和三八年一〇月一二日、被告水谷秀夫に対し、金一九〇、〇〇〇円を、その弁済期を同年一一月一二日、利息を日歩金二七銭と定めて貸し付けたが、このとき、被告中島さわは、原告に対し、被告水谷秀夫の該消費貸借上の債務につき連帯保証の責に任ずべきことを約諾した。

二、ところで、被告水谷秀夫は、原告に対し、

(1)、昭和三八年一〇月一二日、右借受の日から約定弁済期までの間(三二日間)の右約定利率による(元本金一九〇、〇〇〇円に対する)利息金として、金一六、四一六円の前払をし、

(2)、さらに、同年一一月一二日、元本の弁済を一箇月間猶予されたいとこん請するとともに、同月一三日から同年一二月一二日までの間(三〇日間)の遅延損害金として(日歩金二七銭として計算した)、金一五、三九〇円の前払をし、

(3)、さらに、同年一二月一九日、元本の弁済を、さらに約一箇月間猶予されたいとこん請するとともに、同月一三日から昭和三九年一月一九日までの間(三八日間)の遅延損害金として(日歩金二八銭として計算した)、金二〇、二一六円を支払うことを約したが、このとき現実に前払したのは、その内金二〇、〇〇〇円であつた。

三、その後、昭和三九年一月一七日にいたり、訴外矢田一男は、原告に対し、被告水谷秀夫が原告から借り受けた第一項記載の借受元利金の支払債務を重畳的に引き受けたいと申し出たので、原告は、これを諒承した。

そして、同訴外人は、原告に対し、

(1)、まず、同月一七日、同訴外人振出にかかる金額六二、五〇〇円の小切手一通(その振出日は、いわゆる先日付で、同月二三日であつた。)を交付し、右小切手金のうち、金四〇、〇〇〇円は、これを、借受元本の内入弁済にあてることとし(ただし、その内入弁済は、同月二〇日になされたこととする。)、小切手残金二二、五〇〇円は、これを、同月二〇日から同年三月一九日までの間(六〇日間)の(残存元本金一五〇、〇〇〇円に対して、日歩金二五銭として計算した)遅延損害金の前払にあてたいと申し出たので、原告は、かかる趣旨のもとに、該小切手を受け取つた。(なお、右小切手金額は、その後、支障なく支払われた。)

(2) さらに、同年六月一八日、同年三月二〇日以降に発生した遅延損害金の一部支払として、金五、〇〇〇円を支払つたほか、同年八月一七日にも、同じ趣旨のもとに、金四、〇〇〇円を支払つた。

四、ところで、第二項、第三項記載のごとくにして支払われた利息金、および、遅延損害金のうち、それぞれ、利息制限法所定の最高利率を超過する部分については、これを、当然、その都度、借受元本の一部支払にあてられたものとして評価すべきではなく、将来、さらに発生すべき遅延損害金の前払として評価するのが正当というべきである。そして、この見地よりすると、被告両名は、原告に対し、いまだ、残存元本金一五〇、〇〇〇円と、これに対する昭和四〇年三月三一日(けだし、計算上、同月三〇日までの許容最高利率による遅延損害金が支払われたことになるから。)以降完済にいたるまで年三割六分の割合による遅延損害金の支払義務を免れないものといわねばならない。よつて、原告は、被告両名に対して、該義務の履行を求めるために、本訴の請求に及んだ。

(別紙)

『抗弁事実』

一、昭和三九年一月一七日、原告と被告両名、ならびに、訴外矢田一男との間において、将来、被告両名が原告に対して負担していた原告指摘の消費貸借上の債務は、すべて、同訴外人がこれを引き受け、被告両名は、爾後、右消費貸借上の債務全部を免れる旨の合意が成立した。ちなみに、しかく、右訴外人が、この債務を引き受けた所以は、当初被告水谷秀夫が原告から借り受けた金一九〇、〇〇〇円を、現実に使用費消したものが同訴外人であつたことによるものである。されば、このことによつて、被告両名は、原告に対して、爾後、何らの債務も負担しないこととなつた。

二、かりに、前項の主張が認められないとしても、被告水谷秀夫は、原告主張の請求原因第二項記載のごとき利息金、ならびに、遅延損害金を支払い、また、訴外矢田一男は、その重畳的債務引受人として、原告主張の請求原因第三項記載のごとき元金内払や遅延損害金の支払をしたのであるから、これら支払にかかる利息金ならびに遅延損害金のうち、利息制限法所定の最高利率によつて計算した許容最高利息金、ならびに、許容最高遅延損害金を超過する部分を、その都度、借受元本の一部支払にあてたものとすると、計算上、被告両告が原告に対して負担している本件消費貸借上の元本残高は、金八八、七七七円となるから、原告の本訴請求のうち、これを超える部分は、当然、失当として棄却を免れない。

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